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第二話:存続の危機編.13


オマケ.突撃!万葉集


「終わったーーーー!」
桃子は解放された。
長いテスト期間も終わり、何とかレポートも出し終わり、いよいよ夏休みだった。ばんざーいと叫びたい程晴れ晴れとした気分。
東条重美部長は何だか、終わった開放感よりも、やり終えたテストに達成感や名残惜しいものを感じている様子だったが、とにかくテストが終わり、楽しい夏休みだ。
・・・と、一般の学生は思うのだろうが。
「さて、これからはサークル再興に全力を投入しよう!」
と部長は張り切っている。
部室には部長と桃子、真理子、サンダーバードが集まっている。今日は七月三十一日、テスト期間最後の日だった。
「と言っても、あの一年生達、どうかな。」
「一応、メールアドレス交換してて、テスト終わったらパフェを食べに行く約束なんです。今日これから行ってきますよ。」
「桃子ちゃんやるなあ。」
本田も恩田も庄田も感心している。
「でも、その次が・・・。」
「夏休みも来てくれるといいんだけど。確か、期限の八月十三日土曜、午後四時に、学生連合が来るから、その時に名簿を提出し、そこに部員の四分の三が集まっていないといけないんだろう?」
部長はカレンダーをめくる。
「何だか、汚い感じだよな。そんな時期に、皆実家に帰るんじゃないか?」
本田はぷんぷん怒っている。それも結構重要な問題だ。
「まあ、仕方ないがな。俺、桃子ちゃん、休部の依田さんは抜かして鳥越さん、恩田本田庄田、一年のまこちゃん、洋子ちゃん、服部君、の九人部員がいるとしたら、六人が当日来ていればいいんだな。」
「あたしたちは大丈夫よ。でもさ、十二日に茨城で用事が有って。でも日帰りだから必ず次の日には来るわ。」
真理子さんはそう言う。まあ、それは特に問題無さそうだった。
「一年生には、八月十三日に来てくれるように頼んでみます。」
桃子は言った。そして、引き出しから「入部届」の書式例と便箋、ボールペンを取り出して、バッグにしまった。
「おう!頑張れ!」

星のアイコン

試験も滞りなく終わり、完璧なレポートも提出し終えて、桜木女史は例の如く、学生連合会長室へ呼び出されていた。彼女は水色のスカートに白い七分袖ブラウスで、髪を巻かずに後ろに流し、すらりとした姿で立っていた。表情は相変わらず隙が無く、わずかに余裕の笑顔。彼女は単位を落としたりなどなさったことはないのだ。
「学生は楽しい夏休みだけど。」
大きな革張りの椅子にゆったりと腰掛けた祐天寺会長は、相変わらず機嫌よさそうに言う。
「我々はまだ仕事が残っているね。執行部の中でも、サークル関係は活動が有るから、桜木君も大変だと思うが、頑張ってくれたまえ。」
夏でも会長は長袖のシャツを着ている。袖の折り返しがさわやかな白で、その先の手には、「杉並大学サークル・同窓会規約」が握られている。
「とりあえずこの件が終わったら、バカンスにでもゆっくり行って来るといいよ。」
桜木さんは申し訳程度に目で頷くが、返事もしない。
「君はどこに行くの?北欧やスコットランドなんていいよ。ニースやアジアは日本人も多くてね。」
「湘南にでも行って来ますわ。」
「はは。君はおもしろいね。スコットランドに行きたかったら、あっちに別荘が有るから一緒にどう。」
誰があなたの別荘になんて行きますか。と言いたい気持ちをおさえ、桜木さんは失礼の無い範囲で丁重にお断りした。
「で、本題だが。」
「はい。」
「本題に入るといつも反応がいいね。」
当たり前である。
「・・・いくつか確認しておこう。この件に関しては君の方が多分熟知していると思うが、フォークダンス部がサークルとして認められるかどうかの最終判断は、八月十三日土曜日、午後四時。その時間に担当委員である君がフォークダンス部の部室に行く。そして部員名簿を受け取る。休部者は人数に入れないんだったかな。」
「はい。その点はきちんと守っている様子です。」
「そして、その場には休部者を入れないサークル全構成員のうち、四分の三が立ち会っていなければならない。規約にははっきり書いていないけれど、部室に来た人数が規程の五名を上回っていたとしても、それがこの日だけの幽霊部員の可能性も考慮し、不正を防ぐ為と解釈して、この四分の三ルールが優先。これらに例外は認めない。」
「世間がまさにお盆休みに入る土曜日でも、ということですね。」
「もちろん。」
祐天寺会長はまた上機嫌。潰れかけたサークルの再興を難しくする汚い規約だ。これまでも、ちょっとその辺を何とかするだけで、学生連合にとって都合の悪いサークルをどんどん潰すことが出来た。桜木さんは祐天寺会長の期待通りの仕事を何件もこなしてきた。今更会長に口出しされることではないのである。
「で、現在のところ何人だ?」
桜木さんはじっと会長を見る。
「そういうことに関して聞かれるのは、会長の権限内ではないと思います。」
一瞬の沈黙。会長は両肘をつき、指を組んで、そこへ鼻先をつけた。表情が半分見えない。
「・・・今までと大分態度が違うね。ま、いいだろう。好きなようにやってくれたまえ。」
「・・・失敗したら、その時は私が責任をとって・・・」
桜木さんが言いかけるのを、会長は手を振って遮った。もう彼は笑ってはいなかった。
「失敗という言葉は聞きたくないよ。それはありえないことだと思っている。」
そう言って立ち上がると、非常に不機嫌そうな目をして、続けた。彼の機嫌を損ねたことは桜木さんにもはっきりとわかった。
「不祥事の件は名誉顧問の宮様にもOBOG会の方にも既にばれて顰蹙を買っている。それに対して我々が何もしないというわけにはいかない。強制廃部にするのと、人数不足でやむを得ず解散になるのと、僕はより平和的な解決法を進めているつもりだけど?」

もちろん、桜木さんもわかっていた。祐天寺の不興を買えばこの大学にいられなくなるかもしれないと。だが桜木さんは三年生で、二年までの単位をとっていたし、よその大学に三年生から編入できる資格だけはもっていたのだ。そうしたら今後何とでもなる、実家に頼らなくても・・・。また、四年生の祐天寺会長が卒業するまでなんとか追及の手を逃れきれば、肩身は狭いが身は安全だというささやかな勝算もあった。彼女は覚悟を決めていた。
「学生連合は、学生に甘い顔していればいいというものじゃない。それはわかっているね。一方を優遇すれば、他方で困る者が出る。より効率的に、できるだけ大多数の学生の要望を満たす必要が有る。大学の質を上げるためにも。フォークダンスより競技ダンス部の方が、競技ダンスよりESSの方が、ESSより経済学研究会の方が、一般学生に求められ、必要とされている。」
もちろん祐天寺の言うことは彼がそう思っているというよりそう言いたくて言っているといった方が近いのかもしれないが、彼にとってフォークダンスなどどうだっていいことは確かだ。山のようにあるマイナーサークルに補助金を出すより、一部の優秀サークルに金をかけ、全国大会に出場するなり、現役学生に公認会計士やらの難関国家資格試験に受からせるなりする方が学校の名も上がり、そこを目指してやってくる質の高い学生達も増える。だがそんなことをしたって、誰が幸せになるというのだ?桜木さんは黙って、目を伏せた。
「君ができないと言うなら、僕が代わるよ。」
「いいえ。これは私の仕事です。越権行為はやめてください。」
「そう。そこまで言うなら、裏切りは許さないよ。」
それを聞いて、桜木さんは顔を上げ、きっと会長を睨んだ。
「私は学生連合の役員です。役員は学生を裏切ることを許されていません。前会長はそう仰っていたと存じております。」
火花が散った。



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アイコンSimple Lifeより
written by Nanori Hikitsu 2005